杉山経昌『農! 黄金のスモールビジネス』
- 作者: 杉山経昌
- 出版社/メーカー: 築地書館
- 発売日: 2006/09/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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もともと同じ著者の前著『農で起業する!』を読んでショックを受けていたのだが、本書では前著で語り切れなかったスモールビジネスとしての具体例をたくさん紹介している。時給を自分で決めてそれ以下の仕事はしないとか、時間生産性を考えると土地を最適利用するより人間を最適利用する(要するに土地は多少遊ばせておく)方が有効であるとか、同じく時間生産性を計算したら割りに合わないことがわかったので米は作らないとか、そういった記述が満載されている。たしかに土俵は農業であるが、そこに至る考え方は本当にふつうのビジネスだ。ぶどうの品質分布にアパレル業界などで使われるプロダクトミックス戦略を適用し、少量生産で最後のひと粒まで売り尽す計画を立てたりしている。
そういえば、ビジネスを始める前にまず自分の労働の単価を自分で決めなさい、ということは、プログラマとしての私がフリーになる前にとある先輩に言われたことでもある*1。著者はこれを厳密に実行し、さらに生活に必要な様々な費用も農業経費として計上されることなども利用し平均労働時間で週給4日を実現しているという。しかも労働内容はコンピュータによる肥料設計や原価計算など情報技術を駆使した知的で楽しいものになっていて、休みなしのキツイものという印象はキレイに覆される。最も流動性が高い資産である時間に対して最適化されているのである。
年頭に読んだ『牡蠣礼賛』もこの本も、漁業や農業のイメージが変わる。ホンモノのビジネスの手法を注入されたこれらの分野はおそろしく効率的になり(逆にいうと旧弊の環境が非効率的すぎる)、しかも効率が上がった分を大量に生産するのではなく(もしそんなことをすればゴミが増えるし価格も下がる)、自由と文化に投資しているところすごい。こういったことが自然と地産地消などの環境負荷の低いライフスタイルにつながっているのも見逃せない。この動きが広がったら日本が変わるかも知れないと半ば本気で思えてくる。
前著と合わせて、強くオススメできる。前著を読んでからの方がわかりやすいかも知れない。
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*1:いまは他人の決めた価格で働く立場である。念の為。