西成活裕『渋滞学』

渋滞学 (新潮選書)

渋滞学 (新潮選書)

めっちゃおもしろかったー。日垣メルマガでオススメされてたので買ってあったのですが、去年のうちに読めていたら年末のベストに入れてたと思います。買うべし。
もともと統計物理とか非線形とかをやってた人らしいんだけど、渋滞がキライだったそうで。それで、渋滞がモデル化できそうだなと思ってやってみた、という報告。といってもそんな気軽なもんではなくて、10年以上考え続けて論文も書いてる。
交通渋滞による損失額は年間で12兆円になるという。そんな誰でも知ってて好ましくないと思っている渋滞という現象をいろいろつきつめているうちに様々なことがわかってくるという。例えば、信号のない高速道路で事故や車線減や合流地点などといった目印がこれといって見当たらないにも関わらず渋滞していることがある。実はこれはsagと呼ばれるごく緩くて体感できない上り坂において気付かないうちに車のスピードが落ちていることによって起こる。前の車が遅くなってしまった場合、十分な車間距離がないと後続車がブレーキを踏む。それが伝播していって渋滞が形成されるということが観察と計算からわかる。
車だけではない。インターネットの帯域、歩道橋を渡る人、アリの列などあらゆるところに渋滞がある。また、お金の流れを考えると渋滞というのはある場所にお金が溜まって動かなくなることであり、自分のところで起こると喜ばしい事態だし、山火事の火の流れを渋滞させれば延焼を防ぐことができる。渋滞を鍵にいろいろと考察を繰り返しているうちに「渋滞学」ができてきてしまったようだ。
渋滞学を研究するにあたって、様々な数理モデルを考案し計算やシミュレーションを行っている。性質のよいモデルの例としてASEPというものが紹介されるが、これはオートマトンそのものである。純然たる計算理論による数理解析によって、極めて実際的な交通渋滞などの問題に影響を及ぼすことができる。分野横断的な「渋滞学」をやるうちに、それらの理論と実用のはざまで専門的に研究を行うことが必要だと説く。そもそも上述のASEPもタンパク質の構造解析から生まれてきたものだそうだ。
研究の知的な刺激を、専門的になりすぎないように配慮して書いたという実にわかりやすい文章でゲームのようにたのしげに解説する。とても魅力的な本だった。自分がいまより10才若ければこれを専門にしたい! とか言い出しかねないおもしろさ。超オススメです。