斎藤美奈子『文学的商品学』

文学的商品学 (文春文庫)

文学的商品学 (文春文庫)

日本人の書く様々な小説・現代文学に登場する商品・モノについていろいろと考察するという内容。小説の読み方もいろいろあるんだけど、モノから小説を読むとこんな面白さがあるよ、という切り口からとても親切に本の読み方を教えてくれる本です。取り上げられているネタは、ファッション(服飾)、食べもの、ホテル、ロックバンド、オートバイ、野球そして貧困。
女性の服装についてほとんど興味がないと思われる(そもそも描写がほとんどない)人は食べものについての情報量もすごく少ないとか、その代表が例の鈍感力の高い人だったりとかいうことに着目するのがいちいちおもしろい。きっと服よりも中身、食事よりも食事メタファが表す別のものに描写を費やしておられるのでしょう。ホテルがなんか本書で取り上げられてるのはほとんど不気味なやつばっかりで、印象的ではあるけどマトモなものがない。オートバイ小説は乗り物をあたかも人であるかのように、主人公と対話する存在であるかのように描いていて、その究極の姿にあのラノベがある。いやあ素晴しい。
小説に登場する商品について書いているのに最後の章ではそもそも商品たるものが入手できない状態をひとつのアイテムとして考えたりするのがうまいですね。でも実はこれほど「もの」にこだわっているジャンルもないということがわかる。結局モノは経済活動を反映しているわけで、ひいては現代社会が写し出されているわけです。
元本の単行本は2003年に出ているので出てくる作品はちょっと前のものが中心ですが、それでも未読のものなど何冊も読みたくなるし、既読であってもあらためて読み直したくなってしまう。読みやすくて楽しくて興味も広がってしまう上に現代の世の中を俯瞰してしまうという、コンパクトながらよく出来た本です。面白かった。