池谷裕二『怖いくらい通じるカタカナ英語の法則』

これは素晴しい。ほぼ日で知って以来、新刊を見たら必ず買うことにしている池谷裕二さんの著書がブルーバックスから。実はその前に『魔法の発音 カタカナ英語』というタイトルで単行本で出ていたらしいのですがスルーしていました。英語勉強法の本って本当に掃いて捨てるほど出ているのでイチイチ買っていられないのですが、この著者の場合は、例えば『記憶力を強くする』っていうほとんどノウハウ本みたいなタイトルなのに開いてみると本格的な脳科学入門書になっていたりなど相当きっちりした脳科学的アプローチが期待できるのと、なにより単純に文章が面白いので迷わず購入。
本書でいうカタカナ英語というのは「What do you think about it?」→「ワルユーテンカバウレッ?」など、いわゆる掘った芋いじるな式に聞こえてきた音をそのまま日本人が認識した音としてカタカナで記憶して再生する、というもの。類書はこれまでも多数あったのだが、そこはきっちりと専門に根差した脳科学的アプローチで差別化している。
本書は4部構成になっていて、意識改革編→実践編→法則編→理論編と続く。まず第一部の意識改革編で著者自身が留学していた頃の経験などをふまえつつ「なぜカタカナ英語が必要なのか」を解説しつつ助走をかける。第二部の実践編では実際の利用場面を想定したおぼえたらすぐに使えるような例文が列挙される。ここまでである程度カタカナ英語のなんたるかを把握してもらったところで、第三部の法則編で英語をカタカナで置き換えるルールを解説。これを習得することにより、自分でカタカナ表記を作れるようになる。第四部で、最新の脳科学による外国語習得の仕組みを解説、ここで本書のカタカナ表記が日本人の英語習得に適した仕組みである(というかこれしか考えられない)ことが説明される。
考えてみると、聞こえたままの言葉を口にする、というのは『英語は絶対勉強するな』をはじめとして各種英語入門本でも繰り返し主張されていることだし、言語習得のメカニズムからいってもごく自然なことのように思える。だとしたらそれをその通り実行すればいいのだけれど、本書では日本人の脳は英語の音声を正しく認識できないという科学的な事実を受け入れて、それならばより日本人に記憶しやすいカタカナで置き換えるという次善策(著者の言葉では開き直り)を提示しているのである。出来そうもない勉強法で挫折し続ける英語コンプレックスと正面から向き合うためのとても現実的かつ実践的な方法だと思えるし、それを著者の専門の脳に関する知見を援用して理論武装してくれるので説得力も抜群にある。文句なしにオススメ。やはりこの著者はハズレがない。
著者のサイトでは、本書の前書きがほぼそのまま読める。というかこの文章が本の前書きになったようだ。読者が考案した「カタカナ英語」を投稿できる場所も用意されているので、そのうち自分でもいくつか考えだしてみたい。
http://www.gaya.jp/english/