畠山重篤『牡蠣礼讃』

牡蠣礼讃 (文春新書)

牡蠣礼讃 (文春新書)

すごい。著者は宮城県で牡蠣養殖業を営む技術者、経営者。プロフェッショナルである。著者はまた「森は海の恋人」運動というものを主宰していて、そちらでも数々の著書がある。この本は、本職ともいうべき牡蠣事情の数々。書き下ろしで、執筆には三年半かかったという。
宮城の牡蠣養殖のルーツを探る旅から始まって、牡蠣の生態や養殖の実際を描写しながら牡蠣を鍵にした交流で広島をはじめ日本各地、世界各国に飛び立って行く。ルーツを探る旅は沖縄を経てはてはシアトルまでたどりつく。それを通して牡蠣にまつわる様々なエピソードが語られる。良い牡蠣を作るためには海水と淡水が混じった汽水域も良い環境でなくてはならないため、海に流れ込む川の水質保全のために上流域に広葉樹を植林する「森は海の恋人」運動を展開して未来に続く牡蠣養殖を見据える。行く先々で牡蠣を愛する同好の志と出会って交流を深め、地元の子供たちには牡蠣養殖の現場を見せる。
牡蠣というひとつの生物にこんなに多様な顔があり、深い歴史があり、人間が動かされ、しているということを生産の現場と文献の研究の両方、さらに膨大なフィールドワークも組み合わせて、べらぼうにうまい文章で描く。牡蠣にかけるこの思いと志が圧倒的な迫力でほとばしります。すごすぎる。加えてこの本には牡蠣養殖事業の起業本でもあって、以前『農で起業する!』という本を読んで感動したんだけどその水産バージョンという面もある。
とにかくオススメです。これ、読むと強烈に殻付き生牡蠣食べたくなってくるんですけど..。ノロなんか知らん。安くなってるらしいから食べに行きたいなあ。