岡島幸男『受託開発の極意』
受託開発の極意―変化はあなたから始まる。現場から学ぶ実践手法 (WEB+DB PRESS plusシリーズ)
- 作者: 岡島幸男,四六
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2008/04/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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本書は2部構成になっていて、第1部が「受託開発の手ほどき」、第2部が「人と組織を変えること」ですが第1部が2/3を占めています。この第1部は本当に手ほどきになっているのがまずすごい。たとえば受託開発の実践を解説するにあたって最初に何に触れるかというと、設計・実装から入るのではなく、それ以前の要件定義について触れているのはもちろんなんだけどそれすら入口ではなく、「お客さまに関心を持つ」ことからスタートしていたりする。そうやって入口からひとつひとつ丁寧に解説してくれています。
その中には、突飛なことは何ひとつ書いてないと思います。推薦文でも何人かが触れているように、それこそ受託開発を生業としているベテランの人には自然に身についていて「当たり前」のことになっているようなことばかりなのですが、それをきすいすい読める平易な言葉できちんと最初から説明してくれているというのは、それが空気のように自然なことであるが故にまさに稀有なことがと思います。
(現在は違いますが)私がかつて受託開発に携わっていたころ、プロジェクトが思うように進まずにどうしたらいいかわからないような状態に置かれたことが多々ありました。今思い出しても顔から火が出るくらい恥かしいですし、ご迷惑をおかけした関係者の皆様には申しわけなく思います。その頃に本書があればとてもいいガイド役になってもらえただろうことは想像に難くない。まあその頃の床にのたうちまわるような経験があって今の私があるわけですが、そんな今の私から見ても非常に妥当な(というとえらそうですが)内容が並んでいます。書名を目にしたときに、「極意」というのは言い過ぎではないかと感じないではなかったのですが、この「当たり前」の実践こそが極意なんだと感じ入ってしまいます。
この永和システムマネジメントという会社の存在感は本当に独特で、本社は福井にあるのに東京で年に2回も他にはないユニークなイベントを主催していたり、XPの本のまともな翻訳をたくさんやってくれたり、勉強会で出会った人たちが次々と転職していったり、私がたまたま近しいところにいただけなのかも知れませんがとにかくいろいろと目立つ。それゆえ知り合いもたくさんいて飲みに行ったりイベントで会ったりなど接点はたくさんあったわけですが、考えてみると彼らの「生業」についてはそんなに話したりしていなかった気がします。本書でいうと第2部系の話の方がする機会が多かったと思う。これまでありそうでなかった第1部の内容は広く読まれて欲しいと思います。