手嶋龍一『ウルトラ・ダラー』

ウルトラ・ダラー (新潮文庫)

ウルトラ・ダラー (新潮文庫)

これをフィクションだと思っているのは作者だけ! とかなんとか言われて話題になったインテリジェンス小説ですね。ハードカバーのも買ってたんだけど結局読まずじまいのうちに文庫化していたので改めて買ったよ。解説が佐藤優氏。
十年の一度の逸材と言われながらその政治信条を問題視されBBC特派員としていわば放し飼いにされているスティーブンスが主人公、彼のもとに、ダブリンで超精巧な100ドル紙幣「ウルトラダラー」が見付かったという報が届く、というところから始まって東京、ワシントン、サハリンなど縦横にかけめぐる。
小説としては雑なところがあるかも知れないが、一気に読ませる面白さはたしかにありますねえ。モデルが特定できる登場人物もいるし、虚実入り乱れという感じは素直にうまいと思う。これでスティーブンス以外の登場人物を語り部にした別のお話なんかがいろいろ出てくるとより小説っぽくなるんですが。コリンズなんかどうだろうか。著者の興味はそういうことにはなさそうなので無理ですかね。
追記: ↑でとかなんとか書いたあとで著者の公式サイトを発見したんですが、そのに文庫版発刊を機に書かれた解説が置いてあって

主人公の英国秘密情報部員スティーブンは、物語の終わりに杳として姿をくらましてしまったが、新潮文庫の出版を機に日本海側の街で姿を見かけたという情報がある。やがて現実世界に舞い戻ってくるかもしれない。

とかなんとか書いてあるんである。続編出す気まんまんという感じ。

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ライオンと蜘蛛の巣』を読んだときに「次はアレ」とか書いておきながら一年経っていたということが発覚して焦る。ついでに佐藤優氏は本書のたった数ページの解説でも存在感出しまくりで、やっぱこの分野のことを書いてるのがいちばん面白いな。