デビッド・カークパトリック『フェイスブック 若き天才の野望』

フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)

フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)

映画『ソーシャル・ネットワーク』公開と合わせて(ぶつけて?)発売されて話題になっているのでどうしても目についてしまいこちらも読みました。この日記にも映画の感想と、その原作になった本の読書記録があるので興味のある方はあわせて読んでください。
それにしてもこの本もメズリックの本に負けず劣らず邦題がひどい..。原題は『The Facebook Effect: The Inside Story of the Company That Is Connecting the World』で、かつ表紙にザッカーバーグの顔も出ていないので、受ける印象が全く違います。
The Facebook Effect: The Inside Story of the Company That Is Connecting the World

The Facebook Effect: The Inside Story of the Company That Is Connecting the World

本書はマーク・ザッカーバーグという人物の「野望」についてだけ書いたわけではない。もっと大きな社会的な変化について触れようとしています。翻訳にはさらに「5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた」という副題が付いてるけど、これもちょっと..。キャッチーなタイトルをつける必要性はわかるけど、内容をよくあらわしているとは言い難いし、なにより原書の意図を無視していると思います。まあ苦言は(いくらでもあるんだけど)このへんで、内容にうつります。
本の前半(といっても3/4くらい)は映画でも語られたFacebookの歴史、なかでも、これまで数多あったSNSFacebookとどこが違うのかを、SNSのそのものの歴史も振り返りつつ解説しています。そして後半(1/4くらい)には原書のタイトルでもあるFacebook以後の世界がどうなってゆくのか、どうなるべきか、というような、壮大な話題に展開されていきます。
専らエドゥワルド・サベリンに取材してザッカーバーグ本人への取材は断られたメズリックの本とは対照的に、こちらはデビッド・カークパトリックがザッカーバーグに密着取材しています。たしかに、視点が違うといろいろとわかってくることがあって面白い。
だがしかし、なにより強く印象に残ったのが、対照的な作られ方をしたこの両者の本で、書かれた「歴史」に驚くほどに相違がないこと。もっとそれぞれ一方的な言い分をしているところがあって然るべきなのに、そういう部分がほとんど見当たりません。このことこそが、マーク・ザッカーバーグという人物が、本書の中で度々出てくる「もっと透明性の高い」世の中を本気で求めている、ということの確かな根拠に思えます。
透明性の高い世界を別の言葉で言うと、ネットであろうが現実であろうが常に人格は1つであるべきだ、ということになります。それが人々の行動をより誠実なものにすると(マークは)言うのです。正直に言って、あらゆるSNS上で積極的に本名で登録している私でも、ちょっと冷汗が出てくるようなところがある。
これについては、上で文句を言ってしまったけれど「若き天才の野望」と言っていいかも知れない。あ、野望がそれだけ大きいということかな? やっぱこの邦題は正しく本書の内容を表しているのかも知れない..。文句言ってすみません(汗)。
あと、それはそれとして、Facebookの成長の過程、例えば、マークは映画の中では広告を嫌がっているだけだったのに、GoogleからSheryl Sandbergを引き抜いて広告を完全に事業として導入するプロセスとか、そういうのはさすがに詳しく書いてあります。また、SNSに関して広範囲に影響すると思われる特許をZyngaのマーク・ピンカスとLinkedInのリード・ホフマンが共同で持っているだとか(寡聞にして知りませんでした)、そういう話も興味深かったです。
ということでまあオススメできる本です。でもこの本(だけ)読んだから映画見なくていいやとかいうのは正直言うとやめてもらいたい..。どっちか言うとメズリックの本も読んで欲しいし、映画も見てもらいたい。特に知り合いの人には。