ブライアン・サイクス『アダムの呪い』

アダムの呪い

アダムの呪い

積読だった『イヴの七人の娘たち』を先日思い立って読んだらめちゃくちゃ面白くて、こんなことならもっと早く読んでおけばよかったと後悔したので、こっちもとっとと読もうと思って入手した。前作はミトコンドリアDNAを使って母系祖先を分類・決定して行く話なのだが、その中でも同様の理屈でY染色体を利用して父系祖先を分類できること、それが母系にくらべてはるかに難しいこと、などがちらっと触れられている。本書はそのY染色体による父系遺伝子を主役に持ってきたものなのでそれで内容を予想しつつ読みはじめたのだが、こちらの方が前作よりもさらに数倍面白い。
なぜ母系から父系に変わっただけで「呪い」などという言葉が使われているのか? という疑問が思い浮ぶのだが、それこそが本書のエッセンスのひとつである。そもそもなぜ2つの性が必要なのか? という疑問からはじまり、遺伝学をツールにして男性が「男性らしい」外見や性格をしているのは何故なのか? といった疑問に対して回答を試みる。その中には、男性同性愛を引き起こす遺伝子は存在するか? とかいったものまで扱われている。
そういった問題にひとつひとつ答えていくうちに、これは福岡伸一さんの本にもあったが(というか本書の方が先なのだが)、個体の寿命も短かく、全体としても絶滅する運命にある哀れな男性というイメージが受かび上がってきてしまうのだった。これを呪いと言わずしてなんと言おう、とか男性の私は思ってしまいますよ。
ところが「呪い」の呪いたる所以はそれだけではない。なぜ男性は女性よりも粗野で暴力的だとされているのか、権力や富を独占している人に男性が多いのは何故なのか、そのようなものを指向せざるを得ないようプログラムされているとしたら。実際、並外れて多くのコピーを残すことに成功しているY染色体は、時の権力者のものであると推定されるのです。そのようなプログラムこそが、筆者の言う「呪い」なのだ。
こうやっていろいろ男性性について考えさせられると、草食系男子にも遺伝子が関与してるかもね。とか夢想したくなるよ。誰か研究してよ。ということでとても面白かった。イヴよりもオススメだが、イヴを読んでいた方が話が速いのでやはり両方読むべきかと。


ところでこの2冊、Amazon3種類ずつあるのはいったいなぜなんでしょう?