今野浩『すべて僕に任せてください 東工大モーレツ天才助教授の悲劇』
- 作者: 今野浩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/04
- メディア: 単行本
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他の著書などにもある通り、著者は工学系からも経済学系からも足を引っぱられながら日本の金融工学の牽引役を勤めてきた人だが、本書の主役というか記述の対象はその弟子であり盟友であった白川浩さんという一人の研究者である。私は専門も遠いため、これまでお名前を存じ上げなかった。前書きから引用する。
この本は、革新的金融システムを生み出すために命を賭した「突き抜けたエンジニア」の半生を通じて、これまで知られることのなかった「20世紀エンジニア」と「理工系大学」の生態を紹介する目的で書かれたものである。
天才助教授は文字通り命を賭して短かい人生をモーレツに生きた。昼も夜もなく研究に打ち込んで、エレベータの中で眠ってしまうような生活をずっと続けていたという。もっともそのエレベータの逸話については終章でタネが明かされる。それだけでなく、時はまさに独立行政法人化を含む大学改革の真っ盛りであり、研究以外にも恐しい量の仕事があるのだ。
主な舞台は東工大であるが、周辺の関係者の所属機関として他にも様々な「理工系大学」が登場する。理工系とひとくくりにした中でも例えば理学部と工学部ではよほど雰囲気が違うことをエンジニア視点で描いており、理学部出身の私にもとても興味深い。白川助教授は工学系出身でありながらも理学系に手を染め、やがて訣別して戻ってくる。そのことも彼の寿命を縮めたのだろう。
とまあ、通底するストーリは悲しいものであるが、理系研究者、特に工学系の人間のことをこれほど生き生きと描いた本などあまりないし、文部省(後の文科省)の大学改革がもたらした現場の混乱など手にとるようにわかる。予想通り一気に読み通してしまったが、一行一行味わって読んでいくことも出来る濃密さももっている。冒頭に書いた通りの期待を持って読みはじめたが、全く裏切られなかった。