ガイ・カワサキ『完全網羅 起業成功マニュアル』

完全網羅 起業成功マニュアル

完全網羅 起業成功マニュアル

AppleMacエバンジェリストにして現在は自らもいくつも会社を起こしかつファンドもやっているガイ・カワサキの著書『The Art of Start』の邦訳です。ガイ・カワサキは私はけっこう心酔していてblogも欠かさず読んでますがこの本は原書未読です。
これまで日本で出ている2冊の訳書はどちらも小田嶋隆さんが翻訳していてそれもたのしみだったりしたのですが本書では三木俊哉さんに変わってます。なんとなくアウトローな感じが薄れてまっとうなビジネス書として扱われはじめてるという雰囲気が反映されてますね。ただこれまでの破天荒なように見せかけてその実とても真っ当なことを言っているというのがガイ・カワサキのスタイルだったのであり、小田嶋さん訳の2冊がマトモなビジネス書でないというわけではない。
原題とはだいぶ離れてる気がする日本語版タイトルですが、副題はだいたいこんな感じだし、まあ読んでみたらこの邦題はこれはこれで悪くないと思った。起業家によって設立されたばかりの会社がビジネスをすすめていく上で必要な売り込みとか資金調達の仕方とかをそれこそ邦題通りマニュアル化して紹介して、その方法もすぐに実行出来るようにテンプレート化されてるのでとても実践的。正しい売り込みは10枚のスライド、20分のプレゼン、30pt以上の文字サイズ、という10, 20, 30ルールはじめ、その10枚もスタートアップのタイプとかフェーズ別に全てテンプレートが用意されてます。ついでに、交渉のテーブルでの本音と建前の翻訳リストというのも載っててこれは一度でもこういうことを体験したことがある人には笑えるほど絶妙に真実を語ってます。
ただ、こういった売り込みとか資金調達のテクニックとかに実践的なアドバイスはもちろん載ってるんだけど、そんなことは実は些細なことでそのへんどうやろうがあんまり関係ない、結局は自社の製品なりサービスなりを良いものにすること、それに尽きる、ということが強調されて、本書に載っているテクニカルなことはあんまり気にしない方が成功には近いという、読んでためになったんだかなんなかったんだかわかんない感じで終わります。
著者の立場(起業家だがVCでもある)でそういうことをあっさり書くというのはやっぱり独特な感じでこういうところがガイ・カワサキの味のひとつですね。書き忘れたけど、本書でいう会社とか起業とかは北米のスタートアップ(だけ)を対象としてます。日本とはインフラも環境も違うからいくらテンプレ化されてるといってもそのまま使うものではない。それでもやっぱり、そういうのよりも人の欲しがるものを競合よりもうまく作るのが大事、という大前提は変わらないので実は本書の根っこの部分のメッセージはかえって日本でも重要なものだと思う。

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まあでもやはり小田嶋ん訳の2冊も読んでもらいたいわけだ。特に『神&奴隷』は素晴しいぞ。

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そしてガイ・カワサキには今年5月に出たばっかりの新刊がある。未読。たのしみだが、読み切るより前に訳が出そうな気もする。
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