『アップルを創った怪物 もうひとりの創業者、ウォズニアック自伝』

2008年最後の読書を年末の比較的ゆったりしたときにこの本に没頭して終えられたことを本当に幸せに思う。素晴しい本だ。というかウォズが素晴しい人だ。読むと泣く。
この日記を見ている人には言うまでもないが、Appleを作った2人のスティーブのうちの1人がウォズだ。本書はその彼の語り下し自伝『iWoz』の全訳である。EditorのGina SmithがWozに55回もインタヴューを重ねてまとめたという本書を井口耕二さんがしっかりとした技術的知識に裏打ちされながら軽妙な語り口で翻訳されている。
原書も発売直後にそれなりに話題になったので興味は持っていたが、山形浩生さんの査読を斜め読みしたら「きわめて食い足りない」と書いてあったり増井俊之さんもblogで微妙な感じに紹介を書いてたりして、それを英語で読むのはつらそうというか読める気がしなかったので買わずにすませてしまった。もちろん買っても積まれていただけだろうことは想像にかたくない。ともかくそういう事情で翻訳が出てもあまり過剰な期待は抱かずに(とはいっても他ならぬ井口さんの訳なのでつまらないということはなかろうと思いつつ)読みはじめたが、一気に読めてしまった。
生い立ちから父に影響されてエレクトロニクスとエンジニアリングに興味を持ったことに始まり、Apple IIの誕生までで全体の2/3くらいが費されている。私自身はApple IIはリアルタイムに接してはいないので、そのエレガントさや革命的なアイデアなどに肌で触れたことはない。ただただ先達から伝説を聞かされたのみであるが、そこに至るまでの過程はとてもよくわかった。おそらくエンジニアでなくても雰囲気はわかると思う。と同時に、やはり天才性を意識せざるを得なかった。
天才はとにかく没頭している。アタリに頼まれてブレイクアウトを4日間一睡もせずに作った(そしてそれを売った代金をジョブズにごまかされた)だとか、Apple II用に5インチのフロッピーディスクを使おうとしてコントローラの出来が悪かったので徹夜しまくって改良したらめちゃ速くてチップ数も減っただとか、そういった「夢中になって徹夜してるうちに出来ちゃった」的な描写がそこらじゅうに出てくる。もちろん徹夜すれば誰にでも出来るようなものでは断じてない。ウォズだから出来たのである。しかしそういったことを本人が気負いなく語っているので、文章中から彼の笑顔がにじみ出てくるようだ。
本書を通して彼は何かすごいものを作りたかったら1人で作ることだ、とも言っている。ウォズが1人で没頭してくれたからこそパーソナルコンピュータ革命があった。でなければApple IIはもちろん、MacintoshもNeXTもiPodiPhoneもなかったのだ。そう思うと気が遠くなる。私は特別に思い入れがあるから冷静に判断出来ていないかも知れないが、この文中で何度も使った「革命」という言葉を感じたい人には特にオススメだ。
iWoz: Computer Geek to Cult Icon: How I Invented the Personal Computer, Co-founded Apple, and Had Fun Doing It

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