小川勝『10秒の壁』

北京オリンピックもほとんど見ていなかったのですが、それでも男子4x100mリレーでの日本チームの銅メダル獲得に感動してしまい、関係ありそうな本書を咄嗟に手に取ってしまいました。
これは100mの話。今回の五輪で世界新も出た100mについて「人類最速」をめぐる百年の物語という副題の通り、競技の成立から現在までを振り返って解説しています。
これが非常に面白い。1/5秒単位の計時だった時代から、1/10秒単位の手動計時での10秒フラット、1/100秒単位の電子計時に変わってきた中で、追い風や標高の影響、スパイクやスターティング・ブロックの使用などによる記録短縮、ウレタン樹脂による全天候トラックというイノベーションなどによって人類の限界が少しずつ延長されていった様子が書かれており、カール・ルイスなどの歴史的なスプリンターが数多く登場します。
10秒フラットに最も近付いた日本の短距離選手として、伊東浩司さんの驚異的なアジア記録10秒00や、今回の四継のメンバである朝原選手や末續選手についても言及されています。*1
さらに驚くべきことに、本書の執筆時点ではまだ達成されていなかった9秒6台を出せる可能性がある選手として、ウサイン・ボルトの名前が挙げられています。出版の2ヶ月後の今どうなっているかは皆さんご存知の通り。この解説を事前に読んでいたら男子100m決勝ももっと楽しめたかも知れません。オリンピックはもう終わってしまいましたが、人類最速を求めるこの競技はますます目が離せなくなりそうです。おすすめ。

*1:朝原選手が日本人として初めて10秒2を切ったときの報道などは個人的によくおぼえています。