米原万里『打ちのめされるようなすごい本』

打ちのめされるようなすごい本

打ちのめされるようなすごい本

いやもう、この本に打ちのめされそうになります。これはすごい。
2006年5月にガンで惜しくも亡くなられた米原万里さんが、週刊文春で連載されていた『私の読書日記』全掲載分を前半部に、その他メディアで書かれた全書評を後半部にまとめた本で、著者の事実上の絶筆となったものです。刊行は2006年10月なのでずいぶん長く積ん読してしまいました。
週刊文春で書評を連載されていたのは知っていましたし、亡くなられる直前まで闘病記をほぼリアルタイムで書かれていたというのはご逝去のニュースとあわせて目にしていたのですが、その2つを結びつけられなかった。実は両社は同じものだったのですね。もっとはやく読んでおけばよかったと思います。
いやしかし驚くのはその書評の中身です。2001年からの週刊文春の連載が時系列で収録されており、書評文に興味を惹かれて自分も読もうと思ったものに次々と付箋を付けていたらほとんど全見開きに付箋が付いた状態になってしまって途中で付けるのやめました。そのくらい魅力的な読書記録がぎっしりと密度高く詰まっています。
ロシアやソビエトに関する文献、言語学社会主義などのロシア語通訳者としての専門と深く関わるものから、文学や評論、ネコの本などなど、新刊本から古典まで次から次へと繰り出してきて、しかもどれも有機的に連なっているのでどんどん興味が増幅されて行きます。1週分のなかに関連本をまとめて何冊も紹介するのですが、これは読書家の行動としてとても合理的。微妙にオーバーラップしつつ少しずつ世界が広がって次週分に繋がっていくのですが、これを何年分もまとめて目にするとあまりの情報量とにも関わらずそれを吸収したくてたまらなくさせる筆致にくらくらと眩暈がしてきます。
読書日記後半は、上でも少し触れたように再発したガンを相手に関連本を読みあさる「癌治療本を我が身を以って検証」となって迫力を増してきます。そんなときにも読書家的視点を忘れず関連本を網羅的に扱いながら次々とツッコミを入れていくのがすごい。その執筆が2006年5月18日掲載分(!)まで続くのです。壮絶
後半第二部の各紙書評集も素晴しく、こちらは1995年からの十余年分が滝のように流れてくる。まとめて読むと圧巻です。これについてはあとで書く。
とにかくすごい。まだ未読の米原さんの本は何冊かあったのですが、年明けすぐに『オリガ・モリソヴナの反語法』を読み、それ以来とっととぜんぶ読まないと、とか思っていたところ。これは今まで開かずにいたことを後悔する1冊でした。