河野泰弘『視界良好』

視界良好: 先天性全盲の私が生活している世界

視界良好: 先天性全盲の私が生活している世界

ツイてる!ポッドキャスト新春2008の2日目を聞いてたら橋本大也さんが言及していたんですが、それでそういえばその橋本さんの日記を見て買っていたのにまだ読んでいなかったことを思い出して引っぱり出してきました。
本は薄いのですが内容は新鮮な驚きがびっしりでとても読みごたえがあります。先天性全盲の著者が世界をどのように「見て」いるのかを淡々と綴っている本。
アザラシがどういう動物かわからないことなどから、ふだん我々が視覚でのみ確認してそれだけを現実としていることに気がついて愕然とします。ライオンのたてがみは触ったことがないからどんなものかわからないと言われると、そういえば自分たちもライオンはテレビなどで見ただけだと気づかされる。動物園でも遠巻きに見ているだけ。そのたった一つの感覚がないと想像したとき、わかるということがどんなことなのかを考えざるを得ません。
けれども本書で著者はそういった「見えない」ことよりも「見ている」ことをより前向きでユーモラスな筆致で書いています。自動販売機を「ランダム押し」して出てきた飲物はプルタブを開けた瞬間にそれがなんであったか判明します。皿に盛りつけられた料理は箸を鼻に近付ければなにかがわかる。トーストの焼き上がりも匂いでわかる。展示会に出かけていって写真を見るのが好きだと書きます。それは本当にとても豊かな完成で「見ている」ことが伝わってくる。
読み終わったとき、自分の世界の見方もちょっと変わったような気がする。良い本でした。