平田剛士『なぜイノシシは増え、コウノトリは減ったのか』

新書365なぜイノシシは増え、コウノトリは減った (平凡社新書)

新書365なぜイノシシは増え、コウノトリは減った (平凡社新書)

週刊金曜日のライターさんが同誌に連載した記事を加筆してまとめたものなので、金曜日的なものが好きではない私はあやうくスルー力使ってしまうところでしたが、目次を見たら興味をひいたので読んでみました。そしたら当たり。非常に冷静でバランスが取れたルポだと思う。
レッドブックに記載されているような稀少種、絶滅危惧種について、その背景、保護の取り組みや成果などの実態を丁寧な取材で書いている。
幻の魚がダム建設の影響で絶滅寸前に追い込まれていたり、一旦は絶滅したコウノトリを再び人間と共生できるよう導入する試みがなされていたり、といった話が展開される。
特にはてな大好きなみなさんは、第4章の『飛ぶ鳥を落とす風車』がショッキングかも知れない。これは北海道に建設された風力発電ファームの発電用風車が、オオワシオジロワシなどの貴重な猛禽類の脅威となっている可能性について取材している。風力発電ファームの中には渡り鳥の飛行ルート上に建設され稼働中のものもあり、実際に風車の羽で切断された個体が多数確認されているという。このため、風力発電施設の停止を「環境団体」が業者に求めるという逆説的なことが起きている。
日本ではまだ審査機関も法律も整備されていないため、自然環境に深刻な影響を与えかねない風力発電施設の建設も開発業者の「自主調査」によって可否が決められる。風力発電先進国のドイツなどの例とくらべると問題が多い。
他の例についてもすべて、長期間の取材を通して関係者の声を収集して紹介していて、漠然と知っていたこともリアリティが増してくるようになるだろう。それぞれ関係者の努力が実っているものもあるし、空回りしていたり、まだ結果が出ていなかったりするものもある。
ともかく、あの雑誌にも良質なルポがちゃんとあるんだねえ。性急な判断は禁物であるということが実感された。良い本です。

参考

後半で触れられている外来種の問題については、この本で紹介されている取り組みは冷静で持続可能なものなんだけど、よくヒステリックな議論になりがちな部分でやれやれという気分になることが多い。このへんは池田清彦『環境のウソ』なんかの議論が参考になると思うので気になる人は参考にしてください。